建築技術 9月号を買ってみました。

わたしはソフトウェアの技術者で、建築のことなんて全然わからないのですが、「東日本大震災における建築物の被害報告 Part1」という特集に惹かれてかってしまいました。


建築技術 2011年 09月号 [雑誌]

建築技術 2011年 09月号 [雑誌]

この特集、15章80ページもある大変なボリュームのあるもので、読み応えは抜群でした。
衝動買いだったのですが、これは買って良かったと思える素敵な一冊でした。


* * *


このような特集が気になってしまう背景ですが、それは技術に対する無力感(絶対に勝てない絶望感)が、わたしの心に植え付けられてしまったからです。

津波でほとんどが流されてしまった木造建築の映像ををみると、津波が来うる土地に木造家屋を建ててはいけない・・と思ってしまいます。

今回の震災で根こそぎやられてしまった地域の映像などを繰り返し TVなどで目にするたびに、人間の技術の無力さというか、「もしかして奢っていた?自然を侮っていた?というか自然の猛威には焼け石に水でしょう?本当は住んではいけないところに私たちは住んでいたんじゃない?」・・みたいな想いが胸にまとわりついてしまっています。特に、昔の碑文「ここより下にすむべからず」のようなものをばんばん紹介されてしまうと、その想いをいっそう強くしてしまいます。

――「あんなものに抵抗して建ってられる建物なんて、あるはずない」みたいな。


しかし、決してすべての建物が流されてしまったわけではないのです。

写(5)は、宮城県気仙沼市大谷海岸に建つ木像の東屋である。海岸から約150mしか離れていない。東屋は全体が津波に覆われたと考えられるが、全くの無被害である。見付け面積の小さいピロティの建物が、いかに津波に有利かわかる。

と、外壁がない建物が津波に大変強いことを示しています。東屋だけでなく、今回の津波で、生き残った建物には

外壁の破壊によって建物がピロティ化し、見付け面積が減少することによって津波の外力が小さくなり、骨組みがほぼ無被害で助かった事例が多く見られた。

のように、普通の建造物でも意外に耐えられるコツがあるようです。おー、津波が来たら壁が壊れやすい建物を建てれば、津波に耐えることが出来るのですね!・・でも

すなわち、自分の身を削って助けたということでは、美談のように聞こえるが、建物の設計がこれで良いかは議論の余地がある。

そりゃそうです。(^^;

そこで筆者は、一階部分をピロティ化した(よく一階が鉄組スカスカのガレージになっている奴です)「ピロティ式住宅」を提案しています。

このピロティの有利性を木造住宅に応用した事例が、岩手県宮城県で見られたので、写(16)〜(18)に示しておく。下記のいずれのピロティ式住宅における場合も、津波の翌日から日常生活が送れたといっており、ピロティ効果の有効性が認められた。

なんと。

筆者らは、図11に示すように、ピロティ効果を活用した綱にに強い住宅の開発を以前より行っている。1階のピロティ部分の階の高さを4mにすれば、図7のAゾーン、Bゾーンでの津波被害を床下浸水もなく全くの無被害にすることが可能となる。

と続いており、

一方、「津波に強い」とされる鉄筋コンクリート建ての建物です。

今回の津波でも荒野にポツンと生き残るコンクリート建ての建物がみられ、その姿は、震災前から言われていた、鉄筋コンクリートの建物なら津波も安心・・を、肯定するものでありました。

けれども、ニュースなどで目にしたその構造のままゴロンと横倒しになった建物の映像は、だからこそ衝撃的です。「コレでも、駄目だったんだ...orz」

自然の力の出鱈目なまでの強大さと、最強装備でも銀の弾丸になり得ない、鉄筋コンクリートの建物に避難しても、結局は運任せしかないのかな。――そんな無力さを実感させる衝撃的なものでした。

でも、そうではないようです。

調査をしてみると、津波によるRC造建物の転倒などが見られる(例えば、写(22)(23)(24))。これら点とした建物には、亀裂発生が見られないものが多い。亀裂がないということは、建物の構造部材が津波に抵抗していないことを意味している。このことから考えると、転倒の原因は骨組部材の破壊による転倒ではなく、建物の剛体回転による転倒と考えられる。すなわち、転倒したものの多くは地盤の液状化、建物への浮力の作用を考慮し、地盤条件に適合した適切な基礎・設計が行われていなかったことが原因ではないかと考えられる。

なるほど、建物が地面からすっぽ抜けてしまっただけなのですね。


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と、いうふうに、今回の震災で芽生えてしまう技術の無力感を、本特集は払拭します。耐震住宅のように、日本の建造物は次は津波被害を最小限に抑えられるようになるに違いないと、技術に対する信頼がよみがえってきます。

そんな象徴として、本特集14章の締めを引用します。

今回の津波被害で特筆されることは、ピロティ式住宅およびRC造建物などの構造物が残存していたことである。残存していたという事実は、現行のピロティ式住宅およびRC造建物は、十分に津波に抵抗できるということを意味している。これまで人間は幾多の自然現象に対して、叡智を用いて戦ってきた。日本の建築界が培ってきた建築技術で、津波と戦えないわけがない。津波の後で、残ったピロティ式住宅やRC造建物がそれを証明している。津波と戦える材料はそろっている。あとは、一歩踏み出すかどうかにかかっている。皆で考えようではないか。

(強調はわたし)

なんと頼もしカッコイイのかしら。技術者ってかっこいいのですよ。共感してしまうのは、畑違いとはいえわたしも技術者の端くれだから。すごくホクホクな気分になれる記事でした。


そのほかにも、

上記2例から、RC造の対津波構造は、基礎がぴっぱられる可能性が大きいので、その接合部を工夫すべきであることと、引張に弱い免震構造物は津波可能地域に建ててはいけないことがわかった。

へー。免震は津波がくるところでは駄目なんですね、とか、畑違いでもトリビア的に面白い記事がいっぱいです。詳しいところは専門外なので正直飲み込むしかない内容なのですが、それでも技術者ならグッとくる特集でした。もし興味があれば手に取ってみるといいかもですよ。