帰還 / アースシーの風

私はゲド戦記にこの二巻があることを知りませんでした。かなりのブランクをあけて書かれたそうです。調べてみると「さいはての島へ」が1972年なのに対し、「帰還」が1990年、「アースシーの風」はなんと2001年です。

ゲドはどんどんハイタカと呼ばれなくなりゲドになり、確かにゲドというイメージになっていくのですけど、かわりにどんどん脇役になっていく。よってやっぱりゲド戦記じゃない気がいよいよ強まります。この二巻を知っていれば、邦題もゲド戦記にならなかったでしょうに。未来は作ってしまった人以外にはなかなか見通せないのです。

ゲド戦記はめでたしめでたしの後に拘る話なんだな、と改めて感じさせる二巻でした。こわれた腕環 では、ダンジョンを無事脱出して「めでたしめでたし」から2章もかけて帰路を描いています。そして帰還はまさに 初期3巻のめでたしめでたしの後です。

新井素子さんの「いつか猫になる日まで」の中で、めでたしめでたし の後で石が落ちてきて王子様もお姫様も死んじゃわなきゃだめ、という話が出てきます。めでたしめでたしで無理にハッピーエンドにしてしまうけど、二人が大変なのは 二人が幸せになるまでより、むしろ幸せになったあとなのに。ゲド戦記はまさにその通りで、無責任じゃないけれど、書かれてしまえば蛇足と感じてしまうのも正直ものの私なのです。

そしてアースシーの風は、ゲド戦記そのものに対する壮大な蛇足で、今まで好きだったゲド戦記の全てのちゃぶ台をひっくり返してしまいました。オセロで逆転大負けしたような気分です。読了語に原題が The Others Wind と気づき、なるほどしっくりくると思いました。本当になんでまたここに来てもう一つの風なのです。

ゲド戦記の続きの二巻は面白かったし、ゲド戦記をきらいになった訳でもないのです。でも読まない方が幸せだったなとも思います。