日蝕とピンホールカメラ

7月22日に、とても良い日蝕がありますが、残念ながら皆既日食が見れる範囲は限られていて、殆どの方は部分食を目にすることになると思います。この部分食の愉しみ方としては、太陽眼鏡で眺めるというのもありますが、木漏れ日の形が部分食の形になる、という愉しみ方もあります。

というわけで、JAXA が「みんなで木もれ日を撮ろう」キャンペーンを行うそうです。

JAXA|「みんなで木もれ日を撮ろう」キャンペーンの実施について


なぜ、木漏れ日が日蝕の形になるかというと、それがピンホールカメラになっているからです。普段の丸い点々は、実は太陽の形だったわけですね。丸がプリミティブな図形だから なんか自然なものだとおもってしまうのですが、実は単に太陽の「丸」を像として結んでいただけなんですね。


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案外「原始的なカメラ」ぐらいにしか思われていないピンホールカメラですが、実はピンホールカメラと 普通のレンズで像を結ぶカメラは、その結像原理が全然違います。

原理が違いますので、例えばピンホールで得られる像は 原理上「ピンボケ」しません、とかとか。ピンホールは「ボケボケ」というイメージがありますが、ピンぼけとは違い、近くから遠くまでほぼ同じように写るのです。逆になので、木漏れ日のような超適当な作りのピンホールカメラでも、ちゃんと像を結んでしまうわけです。(目の進化を考える上でもこの適当でもOKなピンホールは面白いかも)

そんなふうに違う物なので、ピンホールの絵はレンズの絵とは「別物」となるわけでここがピンホール写真の面白みとなっています。そこがレンズで性能の良い像が得られるようになった今現在も、針穴愛好家を惹きつけてやまないのだと思います。

というわけで、今日は日蝕をネタに ピンホール写真について ちょっとだけ蘊蓄を傾けてみようと思います。


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太陽から出た光は、被写体(下の絵だと Squeak少女)に当たると拡散します。ここで被写体と像を得たい平面の間に小さな穴の開いた板を置いてみると、被写体の一点(例えば Squeak帽のお鼻の先)からあちこちに拡散した光は、間にある穴を通過することで、たった一束の光線に絞られます。つまりピンホールを支点に被写体の一点と像の一点が直線で結ばれるわけです。こうして一点一点をプロットしていけば、被写体の形をなぞった像――写真が得られるわけです。

そういう原理上、像を得る平面の位置は線をどこで切り出すかというだけなので、ピンホールに焦点はありません。ですのでピンホールと結像面の距離を前後に動かしてもピントが変わったりしません。このような操作をすると単純に焦点距離だけが変わる――つまり「ズーム」します。近づければ広角に、遠ざければ望遠になります。


穴は小さければ小さいほど、光の束は捕捉なるので鮮明な絵が得られます――というのは嘘で、光には回折がありますので、あるところまで穴の径を絞ると逆に像がぼやけてしまいます。ピンホールの最適径は回折の影響が小さくなる最小径になるわけですが、そこらへんの詳細はこちら

http://www.geocities.jp/sasagelab/pincame1.html

を参考に頂くとして、現実にはだいたい 0.1〜0.4mm 径 の間に落ち着きます。鉛筆やシャープ芯くらいの太さかしら。なのでピンホール写真とは、光のシャープペンシルで 現実をスケッチしたもの・・なんて表現されたりするのです(ん〜、ロマンチック)。

逆に鉛筆で絵を描くのに十分な紙の大きさがない場合(例えば35mmフィルムのような極小フォーマットとか)、ピンホールはボケボケ、というイメージになってしまいます。(これはもったいない)


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ピンホールカメラを作る時、一番神経を使うのがピンホール作りです。ただ写る・・くらいだと別にそうでもないのですが、得られた像の鮮明さを求めると、円に近く、エッジは薄く、理想径となるようなピンホールを作るので 結構難しいのです。でも太陽くらい遠くって明るいと、ピンホール像が見るに耐える(何の像だかわかる)条件はそうそうシビアじゃありません。ですので木漏れ日とか、そんなので像が得られてしまいます。

というわけで、日常、それがピンホールカメラになっていると意識していなかった景色が、とたんに その正体を現す 部分蝕というイベント、皆様も愉しんでみてはいかがでしょうか。