せかい

サークル時広回路 / 高木時広 さんのSF小説です。

本作は、量子力学の多元宇宙解釈モノであり、ふたつの重なってしまった世界について書かれた、今となってはありきたりといえばありきたりの小説です。しかし、本作の体裁はありきたりではありません。重なってしまった二つの世界の一人の人物が、上段と下段でそれぞれ同時進行で進んでいくのです。

同じ事象に対する二つの視点が上段・下段で同時進行・・・というところまでは、珍しいけど無かったアイデアではありません。しかしこの小説は行単位でも事象がぴったり一致するという、書き手にしてみれば悪夢のような構成であり、読み手にしてみればよくもここまでと感心を通り越して呆れてしまう、ここまで徹底して書き上げるなら書き上げるまで5年の歳月を費やしたのも納得できるというものです。

私は、このあまりの労力を費やした小説を読むのに、章や項、ページ単位で上下段を読むのではあまりにも失礼だと思いました。なのでこの小説にふさわしい読み方、上段と下段を同時に読んで見ました。――なんかエラい疲れましたが、いや、やってみると結構できるもんですね(^^;

しかし、そしてそうして読んだときの興奮は、もう生半可ではなくって、面白すぎるの一言に尽きます。上段の人物と下段の人物の気持ちが繋がっていった時の興奮!、二人分の意思を持って進む現実!ああ、陳腐な誉め言葉しか思い浮かびませんが、これは良いものです。


とりあえず自分用と布教用は確保したので、次は保存用を買ってしまうのかしら。