アイの物語

面白かった!! この本は絶対お奨めですよ!

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

世界がアンドロイドの物となった近未来、人間の少年に アンドロイド──作中ではTAI(True AI)と呼ぶ アイリスが一夜づつ「人間の書いた物語」を読ませていく、千夜夜物語 のアンドロイドと人間版のような骨子をもつ「長編」です。

少年はアンドロイドが人間を駆逐して世界を支配している「世界(物語)」に住んでいて、だから アイリスが何を言おうと「機械のプロパガンダ」じゃないかと疑うから、「真実の歴史」ではなく、アイリスは人のつくった人のつくった物語(フィクション)を一夜一夜話していく・・。

中に含まれる「人間の書いた物語」(プラス、1つの例外)という短篇

  • 宇宙をぼくの手に (Space on My Hands)
  • ときめきの仮想空間 (An Exciting Imaginary Space9
  • ミラーガール (Mirror Girl)
  • ブラックホール・ダイバー (Black Hole Diver)
  • 正義が正義である世界 (Justice Are on Our Side)
  • 詩音が来た日 (The Day Shion Came Here)
  • アイの物語 (A Tale of i)

はそれぞれ素晴らしいのですが、それをつなげて奏でられる物語はもっと素晴らしい。

「アイの物語」で、分かりやすい比喩ではなく、正しいけれど誤解を生みやすい言葉で感情を綴れるのは、それまでの話で読者と少年と、アイリスの間に共通のコンテキストが形作られるから。そうして丁寧に共感の土台をこしらえて語られる「アイの物語」とその後である千一夜の舞台に、何とも言えない感動を覚えるのが本書の醍醐味です。

ちなみに短篇として分けて考える(あんまり行儀よくない行為けど)としたら、わたしは「詩音が来た日」が一番好き。詩音の至る「ヒトのモデル」と、それを読む(捉える)現に「ヒト」であるわたし自身が、思わず「そう」してしまう心の反応。そして詩音の有り様とが、この一編を好きにさせます。

ところで、

ヒトの言葉はあまりに不完全だ。ヒトが考えつかなかった概念、表現出来ない概念が多すぎる。だから私たちは次々に新語を生み出さなくてはならない。「ヒトは正しいと思っているが、私たちには論理的に納得できない命令」と言うより、「カンサイ」といった方が早い。「タイムシェアリングの空き時間に行う無意味だが心休まるジョブ」は「プチプチ」としか表現できない。

プチプチ・・・。はふん。プチプチする気持ちをi付きで表現するとどんな感じなのかしらん。