未完少女ラヴクラフト
個人的嗜好として「クトゥルフねた」より「クトゥルフもの」のほうが好き、というお話でしたが、その点、この未完少女ラヴクラフトは、ニャル子さん おなじクトゥルフ関連の萌化コンテンツでありながら、「クトゥルフもの」であるのがバッチリ好み、いあいあ な感じでステキです。
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大西尹明
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1974/12/13
- メディア: 文庫
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間違いました、こっちです。
- 作者: 黒史郎,コバシコ
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2013/01/13
- メディア: 文庫
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さて、本作で少女化されているのは邪神ではなくってラヴクラフト御大です。大切なことだからもう一度言います。少女化されたのはラヴクラフトです。しかも 本物のラヴクラフト(おっさん)が異界に飛ばされたあげく少女になってしまった姿という、美しくもおぞましい萌え化です。いあ!いあ!
「えっと、つまり、作家だった時の君が考えた悪い神様がここでは実体化していて……でも、あの
ラヴクラフト がなんで少女 に?……ああもう、こんがらがってきた」
どうしてこうなった...。
そして主人公 カンナは、儚くかわいらしい外見の、パブ「金羊毛(トワゾン・ドール)」の看板娘(♂)。
「女として生きていくのが、あんたにとっての幸せなのよ、カンナ」
「いやだ!僕は男として生きていくんだ!こ、これだけは譲れない!」
「ハッ、バカ言いなさんな、あんたに男を生きるのなんて無理よ」
カンナは歯を食いしばって母親を睨みつける。
「母さんに僕のなにがわかるっていうんだよ!」
でもでも心は男の子。だから ムキムキマッチョな英雄に(なりたいと)憧れるるのですが、残念ながら「漢らしい」とは言いがたい。だってとってもSAN値が低い。
あんたのメンタルもろっもろだもの。あんたこの前、客のゲップに驚いて白目ひん剥いて卒倒したでしょ
しくしく。すぐパニクる、ヒステリーを起こす、度胸がない..etcetc。まさにヒロイン気質です。
そんな カンナが住まうはラヴクラフトゆかりの地「アーカム」。カンナは、アーカムの図書館で初恋の女の子の顔の真ん中に空いた黒い穴に吸い込まれ、異界「スウシャイ」に召喚されます。<時を穿つもの>カーナツェリオンと間違われて。
「いいですか。カンナ・セリオ。カーナセリオ。ナーナツェリオ。カーナツェリオン」
「え……?」
――まさか、そんなイージーミスで?
う。
* * *
表紙だけでも「掴みはOK」、キャラクターだけでも「買ったも同然」な本作です。ここらへんはラノベの文法どおりなのですが、本作の文体はどうにもラノベと言いがたく。十二国記をラノベと呼ぶのに違和感バリバリなのと同じように、本作もきちんと怪奇ものの、おぞましい言い回しにほれぼれします。
引用した文章からも伺えるでしょうテンポの良い文字運びにユーモア、オカルト好きはニマッとしてしまう用語や神性、おぞましい(決して美少女化していない)異形たち。そしてカンナの成長と世界の謎を解き明かす冒険を描く、富士見ファンタジア的カタルシスは、わたしの好みにバッチりです。
そんなわけで、ちゃんとオカルトしていて禍々しさも備えているけれども、読後に窓の外が気になって眠れなくなるような恐怖はない「オカルト異世界冒険物」という落とし所は、万人に進められると思います。特に異界と邪神と王道ファンタジーを愛する中二なあなたには、とってもおすすめです。