聖剣の刀鍛冶16

前巻が最終巻で、本当は外伝という話だったのですが、できあがってきたモノは、まごうことなきブラックスミスの最終巻でした。あとがきでおっしゃられているとおり「前巻で本編終わっていなかった詐欺」ですね。

本当に素晴らしい出来、すばらしい幕引きで、この最終巻を読むためだけに全16巻を読んで欲しい――心からそう思います。


15巻までは全てセシリーが表紙でしたが*1、うってかわって本巻の表紙はリサ。それは、セシリーとルークの1年間の物語の後の、リサの300年を紡いだ物語だからです。

「全てを救う」

それは、セシリーの願いであり、そのきれい事を真剣に願い、しかし自ずとぶち当たる救うことの出来ない限界との葛藤。そうであっても決して「折り合い」を付けずに突き進んできたセシリーの歩みを描く本作は、本当に素晴らしいヒロイックサーガでありました。

しかし、セシリーは全てを救えなかった――聖剣「アリア」を犠牲にして15巻までの幕は閉じます。子孫に、悠久の時を生きるリサに「アリアを救う」思いを託す。そういう幕閉じをするのです。

本巻は、そうして託されたリサの物語。

強く、けなげに生きるリサは、ルークやセシリーの想いを糧に、辛く長い長い戦いを続けます。たった一つの目的を胸に、ひとり長い長い時を生き続けるそのつらさが。これまで積み上げてきた全てが無に解するかもしれないという衝撃が。リサの心を蝕むとき、彼女は慟哭の果てに一つの夢を見ます。

かつて、セシリーが生きていた頃の過去の思い出を

「辛ければやめればいい。頑張りたければ続ければいい。好きな方を選べ」
「……」
「君が君の意思で選ぶんだ。そのためなら過去のつながりなんて棄ててしまってもかまわない。エインズワース家のこともキャンベル家のことも何もかも放り投げてしまって、純粋に自分が進みたいと思う道を選んでいいんだ」
「……そんなこと、できるわけがありません」
――あれ?
リサは己が発した言葉に驚いた。
――私、こんなことを言いましたか?
いや、違う。このときの自分はむきになって言い返したはずだ。
絶対に諦めない、アリアさんを救ってみせると息巻いたことを確かに覚えている。昔、ルークに「私を見くびるにもほどがあります」と怒ったときのように。このときはまだセシリーが生きていたから――心は強く保たれていたから、そう言い返すことが出来た。
じゃあ今の言葉は何?考えることはない。
――私の”現在(いま)”だ。


* * *


本巻を読んで、わたしは「トップをねらえ!」の最終話を思い出しました。話の筋は違うのですが、一人時の流れから切り離され、それでも人の思いを背負っていく苦しみは、大きな感動を湧き起こします。

本巻の最終章のタイトルを「聖剣の刀鍛冶」」と言います。

シリーズを冠するこのタイトルは、この物語が、リサの物語であったことを示唆します。成長しないはずの悪魔の確かにその成長と時の長さを感じられるこの表紙絵と共に、リサの生涯とセシリーの意思の物語は、ここに終わりを告げるのです。

もし未読であれば、是非手にして欲しいと強くお奨めする次第です。

*1:15巻はルークも映り込んでいますが、あれは「ルークを着込んだセシリー」なので、衣装扱いです