マツドサイエンティストナイト4 に行ってきました

先週の土曜日、3331 Art chiyoda で行われました、マツドサイエンティストナイト4 に行ってきました(松戸でも夜でもありませんでしたが)。

タイトルは「超低高度衛星の秘密」。いままでは マツドサイエンティスト こと 野田○○さんがゲストを招きつつお話ししていたそうですが、今日は野田さんが主役の話題です。


まずはメンバーのご紹介。

野田篤司さん。謎のエンジニア(自称)。前述のとおり今日は司会ではありません。

鹿野司さん。ごぞんじ くねくね な方。サイエンスライターです。野田さんと知り合ったのは 1999 or 2000で、野田さんが 超低高度衛星を始めたのは2006年。それからすぐの 2007年頃に取材しようとしたそうですが、、、、大人の事情で実現せず。今日はちょっとしたリベンジ?

石川月美 さん。肩書きは女子高生。一部ではサテライトガール の二つ名も(でもそれだとご自身が衛星になっちゃいそう)。

最後は 小林伸光さん。イラストレータ、夏のロケット団の一味。そして本日の司会です。

全体としては3部構成になっていました。それでは スタート。

第一部: 超低高度衛星って何?

SLATS: 超低高度試験衛星

超低高度(試験)衛星/ SLATS : super low altitude test satelite。上手くいけば3-5年で飛ぶそうです。

会場で疲労された資料はすべて公開されている情報とのこと。謎のエンジニアですしね。というわけで探してきました。


大きさは全長2mちょい。真ん中の四角い金色の羊羹は 60cm角 になってます。

さて、超低高度衛星は、その名のとおり 普通の衛星よりもずっと低い高度を飛ぶ衛星です。

普通の衛星は 300km 以上の高度を飛びます。だいたい 6〜900km が多いそうです。

と、ここで、つっこみの激しい司会から「なぜ衛星がおちないのか説明しなくてよいの?」とのツッコミが。

まぁ、ここに居る人はみんな知ってるだろうと前おいた上で、野田さんが、「遠心力と重力が釣り合っているから」との例の説明をば。すかざず「ここに居る人たちは『遠心力など無い』とつっこみますよ」「釣り合ってるならどこまでもまっすぐ飛んでってしまうのではないか」との激しいツッコミが。ある意味──というかそのまんま漫才なのですが、この漫才は客を選びますにゃあ。にしし。あたしも心の中で「遠心力なぞ無い」とつっこんだ質なので、この漫談は至福です。

さてさて、SLATS のサイズの話がでたところで、じゃあ普通の衛星はどんなくらい?という質問が(司会から)。

小さい物だと、10cm、大きいものだと200mm──ってこれは国際宇宙ステーションですね。だいたい 4〜5m くらいが多いそうです。じゃあ、普通じゃない衛星──偵察衛星は?と質問がでましたが、「いやーーー、わからないですね」。謎の組織ですので。

超低高度衛星のメリット

超低高度衛星 は 200km の高さを飛びます。他の衛星が 300〜900km なのはなぜ?というのは、空気が十分に薄いから。空気が濃いと空気の抵抗でスピードが落ちて、軌道が下がる。そして衛星が落ちてしまいます。

そんなところを飛ばす 超低高度衛星のメリットは? というと、それは至極単純で、高度が低いから地表が大きく見えるということです。

普通の衛星は今のトレンドではだいたい 1m くらいの分解能を持っています。普通の衛星の高度で 1m の分解能というのは、 この3331 Art chiyoda から 鹿児島〜高地にあるものを 1mの分解能で見えるということで、それはすごいことなのですが、そこから分解能をもっと上げていこうとすると太変なのです。

光学機器の性能(角度分解能)はレンズや反射鏡の直径に比例します。反射鏡の値段は直径の2〜3乗に比例します。……この2〜3乗というのも「普通の民生機器」くらいのサイズでの話で、もっと大きくなると4乗にのるそうな。その上作れる大きさに上限があります。

分解能と 光学性能、衛星高度の関係は以下のようになります。

分解能 ∝(光学性能) ÷ (衛星高度)

つまり、高度を下げればどんどん性能アップが(お金的に|大きさ重さ的に)大変になる光学性能をそのままで、分解能を上げることが出来る。これが超低高度衛星のメリットです。

ちなみに、日本では地震があるから反射鏡を磨くのは難しいそうな。また、日本で作っている光学機器の上限はどのくらい?との(司会の)質問には、しらない(これは本当に知らない)とのこと。そこらへんは情報が担当部署毎に閉じているそうな。「だいち」だと0.7〜1m くらい。どこかで誰かがもっと変なの物を作っている可能性があるそうな。

超低高度衛星のデメリット

さて、話は戻って超低高度。高度を下げるデメリットは、なんといっても見える範囲が狭くなること。

観測幅∝衛星高度

だから同じ観測範囲を抑えるのに、複数の生成が必要になります。

ケース1)

  • 高度600m 分解能1m ..これまでの衛星
  • 高度200m 分解能1m ..超低高度衛星

光学系のコスト1/9 - 1/27 。 ただし必要な衛星数は 3倍になるので、トータル 1/3 - 1/9 のコストでOKです。

ケース2)

  • 高度600m で 50cm の分解能 (1mの鏡)
  • それと同じ物を高度200m下ろす

そうすると分解能は16.7cm になります。ちなみに分解能 50cmってどんな塩梅かというと、人がいるかな? 程度のことが分かるくらいだそうです。これが 16.7cm になると人が男か女か(スカート履いている履いていないか)がわかる塩梅です。
そこで、「女装している男は?」とのツッコミ。「わからないよ!」「ちかくにいたってわからない人はわかんないよ!」

ちなみに 世界最高性能どれくらいかというと、これは軍事の世界になっちゃうので、わからない、けど噂レベルでは 凄いのあると思われる。

ハップル宇宙望遠鏡を地上に向けた場合、ハップル は 2.2m の鏡で そのときの分解能は 高度600m の時 20〜30cm。アルタの画面くらいは見えそう。

光学性能を上げる(鏡を大きくする)のがどれだけ大変かというと、 1mの鏡だとたぶん100kgで、ハップルの鏡は 2.2m なので 3乗でも 重さ2.2倍?・・と思いきや重力に打ち勝たなければいけなくなるためガンガン分厚くなって 4乗のオーダーになる。だいたい 11t になります。

そうなると、H2Dロケットの打ち上げ能力(16tの能力)では 鏡だけで へとへとで、衛星では全体では 20tくらいいくと思われるのでこれは打ち上げできません。このクラスの大物を打ち上げるには、大昔の伝説のロケット(エネルギア、サターンV)がないと無理。というわけでハップルは今では打ち上げられないそうな。

どうしていままで超低高度衛星がなかったか?

空気が多いからそのままでは落ちるからです。

スペースシップワン は 高度100km の「宇宙旅行」を提供しますが、ガンダムが耐熱フィールド(TVでは耐熱フィルム)を展開したりバリュートつかったりで真っ赤*1になって大騒ぎする 「大気圏再突入」が 120km 〜 70km のお話なので、これは「寸止め宇宙旅行」よね。

高度 200km は 大気圏に突入するほど低くはないですが、それでも 衛星がすぐに落ちてしまうくらいには空気があります。

この「すぐ落ちるってどれくらい?」かというと、これは天気(太陽荒らし)によって違うそうです。荒らしがあると空気が濃くなるので落ちるのが早まるし、おとなしい場合でも 1週間くらいでもおっこっちゃう。

ISS くらいの高度(500km)でも 2-3年でおちてきちゃうので、推進剤を使って加速してあげてます。そんなわけで、「デプリが問題だ」とよく騒がれるけれども衛星がよくいる高度は、結構短期間で落ちてきちゃうので、大騒ぎするほどは問題ではないですね。が、高度が900mくらいになると 1000年とか2000年とかおちないので問題。

というわけで、超低高度衛星が狙う 200km では 短ければ3日、長くても1週間 で落ちてきちゃいます。


打ち上げても持って一週間では、どうしようもないわけで、これをどうやって落ちなくするかが超低高度衛星の課題です。結論から言えばイオンエンジンで高度保持します。

と、ここで はやぶさの写真 が表示されたのですが、無慈悲な司会から「はやぶさとは直接関係ないですよね」「イオンエンジンのメーカーが違うというか」というツッコミが。NECじゃないのですね。

なぜイオンエンジンがいいのかというと、燃費(比推力)がめちゃくちゃいい。普通の化学エンジン(ヒドラジン)300s だと イオンエンジンだと3000s。10倍。そうすると、

ということです。最終目標は5年で、これだと普通の衛星の寿命くらいですね。

SLATS の見た目からあれこれ

イオンエンジンは電気をくうので太陽電池が大きくなります。SLATS の巨大な太陽電池はそのためですね。で、前述のとおり空気がある高度なので、エアブレーキでとまっちゃうから飛行機の翼みたいになっています。最初写真をみたとき、日本の衛星は(お金がないから)太陽電池が固定されちゃうのはデフォなのでしょうか、とか思ってしまいましたが、普通に考えれば当然ですね(^^;

ちなみによーくみると下反角もついていて、これをつけないと空気抵抗があるので、真横につくとひっくりかえっちゃう。というふうに 人工衛星で空力の話をするなんて前代未聞。

羽の手前側に穴は イオンエンジンの発熱を逃すためで、熱ついでいうと空気があるといってもこの高度では 空冷はつかえない(逆にあったかくなる)そうです。

本体の先体のアルミの板は? 空気をかき分けるためのもので、離すだけで熱を伝わりにくくします。

光学系は試験機なのでたいしたものをつんでる

QAタイム1

Q.イオンエンジンの効率は?真空じゃないと効率さがりますよね?

A.結論からいえばこのくらいの高度なら使えるだろうという見解です。(やってみないと..という点はあるので、絶対ではないか)

イオンエンジンが 深宇宙に向いてるのは 実は空気の濃さが問題ではなくって。

実はイオンエンジンのもタイプがあります。

超低高度衛星では 前者の イオンエンジンを使います。

この二つのタイプは別のメーカが作っていて、国内で(まるニコンキヤノンのように)競争していることで、切磋琢磨して世界トップレベルをキープしてます。


* * *


Q. 複数衛星を作っても値段が安くなるとありますが、これらは3機一編にうちあげるますか?それとも3回わけるますか?

A.将来的には同時に 3個打ち上げて上でバラバラにしてコストを抑えたい。ペイロードの中では細長い機体を束ねて打ち上げるというパターンも構想したそうです。

ただ、SLATS の 1号機は1機で打ち上げます(試験機だから)。

大きくして性能を高くするとなれば、細長ければ細長ければよいということになるので、その意味でも今までの衛星の積み方(ダルマ落しみたいなやつ)よりも細いのを束ねるのが理にかなっています。

第二部: 超低高度衛星 開発の経緯(プロジェクトX的なあれ)

なれそめ

超低高度衛星は 8年前「だいち2号」検討中に生まれたアイデアです。

だいち2号の検討において、各方面に地球観測衛星についての要望を聞きました。 ハイパーレスキュー隊などに要望を聞いたら「とにかくそこまでの道が崩落してるかどうかを見たい」「いけるかどうかをみてくれ」「行ってからは俺たちが何とかする」(注:この頃はまだ東日本大震災が発生していません)というのが圧倒的なんですね。でも、だいちの方式の改善では飛躍的に分解能を上げることはできないし、それだとこの要望にこたえるのは難しい。

「どうやってもっと分解能を上げるべきか?」そうだ!高度をさげればいいんだ!

そんなことを思いついた 謎の組織の偉い人がいました。減速してしまう?イオンエンジンでキャンセルすればいいんだ!(ETS-VIIIプロマネでしたので、イオンエンジンは十八番でした)

午前中の会議からの帰路のつくばエクスプレス内で思いついたアイデアで、筑波宇宙センターに あちこちにつくなり電話したのだけれども、「前例がない」「方法が判らない」と 断わられまくったそうです。でも、その偉い人は 断れない人を一人知っていました。それが野田さん*2

電話が掛かってきたのが 14時頃。数時間後「大気密度データ」「イオンエンジン性能」で計算したところ 180km まで行けそうだ、というわけで返答のお電話。これが 3時間後(17時くらい)。

これが超低高度衛星のなれそめです。

補足: 野田さんの謎の組織での業務は「なんでもアイデア実現します屋」だそうで、やりかたが分からなければ実現方法を検討がお仕事だそうです。だから、検討したのは 別にアイデアを思いついたのが「偉い人だから」ではないとのこと。

飛行機マニア、バッサバッサと切られる

これはきちんと検討する価値がありそうだということで、検討会が開始されました。

頭の柔らかい人を、人数は可能な限りすくなく、短期間で。3人よれば文殊の知恵といいますが、3-5人 はいい感じだけれども、7人 よれば分裂を始め、15人だと話がまとまらない。──という信条なので最低限の専門家で構成しました。

集められたのが、

  • 軌道力学
  • イオンエンジン
  • 空気力学
  • 光学機器
  • システム取りまとめ(通訳:野田さん)

の5人の専門家。ちなみに「通訳」というのは JAXA(あ、いっちゃった) の中 の専門馬鹿は本当に専門馬鹿なので、専門用語ばかり話してマジで話が通じない。なので通訳が必要ですとのこと。

集めてみて意外だったことは、頭の柔らかい人 → 若い人じゃなく年をとった人だったこと。若い人ほど型にはまりたがるというかレールに乗りたがるみたい。

さてさて、専門家リストを眺めればお気づきのように、人工衛星の検討に「空力の専門家」が加わるのは前代未聞です。そもそも 「宇宙」のJAXA になんでそんな専門家がいるかというと、JAXA が 三機関統合で誕生したからです。JAXA は 「宇宙開発事業団(NASDA)」「宇宙科学研究所(ISAS)」そして「航空宇宙技術研究所(NAL)」が統合して発足しています。で、元NAL に 超音速ロケットとか、大気圏再突入の専門家 がいるので、その方を引っ張り込んだとのこと。

そんなこんなで、検討を開始します。仕事は宇宙機の専門家ですが、みんな 根は 濃い飛行機マニアなので、少ない飛行機のマニアックな知識を出していろいろ提案。曰く

  • 先端を尖らせたらどうか
  • 尾翼をつけたらどうか
  • 揚力を持たせたらどうか

などなど(もっと濃ゆいおはなしが出てましたが、わたしでは咀嚼できず...)。


が、マニアのマニアックな意見はことごとく「空力の専門家」にぶった切られ、結局、普通の四角い衛星形状に...orz

たとえば、誰もが考えそうなのは流線型。

空気は実際にはつぶつぶですが、粒粒がぶつかり合うことで「流体」のように振る舞います。ですが、高度200kmくらいだと、平均自由行程(≒空気と空気のぶつかる感覚)が 300m 以上。だから流体として考えても無駄、粒子が衝突するだけです。だから流線型にしても無駄。きんいろヨウカン がもっとも理にかなっているわけです。

逆にこの位の空気密度だとピンポン玉がガツンガツンと当たるのを意識したほうが近いどうで、なので先体にバンパーを作って熱を遠ざけるという設計になるそうな。

最初の問題

最初の問題は「軌道安定」。安定性が無ければ、頻繁な軌道制御が必要になります。そうすると燃料の減りも早くなり、衛星の寿命も縮まります。

安定性のある軌道を見つけることが 超低高度衛星の勝利の鍵です。大変でしたが、この検討をやっているときが一番おもしろかった!とのこと。

さてさて軌道を乱す要因としては、

  • 空気
    • 地上だと夜濃くて昼間薄くなる
    • 宇宙だとその逆
  • そして 引力
    • 赤道ほうが引力が強い
    • 北半球の方が南半球よりも引力がつよい

があります。そのうち前者は超低高度衛星特有のものです。

検討の結果、軌道高度は不安定、軌道形状(離心率)は安定な、比較的、低い頻度の軌道制御で維持できる軌道安定点を発見しました。思いついたのは二人同時で、一人はお風呂で、一人は夜道でひらめいたそうな。(冷やすのと温めるのどちらがいいのだろう)この軌道を「新凍結軌道」と呼ぶことにしました*3

なぜ「新凍結軌道」と呼ぶか。実は 普通の衛星の軌道は「凍結軌道」と呼ばれます。「凍結」は歪みが「凍結」の意。先にだした引力の影響ですね。だいちなどでは、1/1000(6km程度) だけ重心位置をはずして(北半球と南半球の引力の違い) います。

新凍結軌道は ここからやっぱり1/1000くらいずれているところになるそうです。

新たな問題

さて、少数精鋭の検討も収束し、満を持してのお披露目です。ここまでだいたい 5ヶ月くらい。予定の3ヶ月よりはちょっと伸びちゃったかな。

各方面のいろいろな方を集めた所、意外なところに穴があることを指摘されました。「この高度だと原子状酸素があるぞ!」

原子状酸素というのは、地球低軌道環境に存在する酸素分子が太陽光の強い紫外線を受けて原子状に乖離したもの。(司:活性酸素みたいな物?→野:うーーーーん、、、、まぁそのようなものと言ってしまってもいいかな)

普通の酸素より全然質が悪くって、化学結合の腕が開いたままでむき出しで衝突してくるのだから酸化力がハンパない。信じられないようなものまで酸化させてしまいます。なんと、衛星をつつむカプトン(金色のアレ)まで酸化してしまうそうで、数ヶ月でボロボロになって駄目になるそうな(カプトンが酸化すると 二酸化炭素と水になって蒸発する)。なので、酸化しても困らないアルミとか、最初から錆びてるガラスとか、酸化対策を考えなければいけません。メンバーに原子状酸素の専門家を加え、再び検討を開始しました。

この一件で 少数精鋭に 懲りたとのこと。少数精鋭だとメリットもありますが、アイデアが出しきらないというデメリットがあります。今回のような場合、本当にやってみないと何がおこるか分からないので、人間が思いつく限りのことはわかっておきたい。なので、わけのわからない いろんな専門家を集めて問題の可能性のコメントを求めました。

ただ、誰もが言ったことのないやったことのないことだけに、みんな「俺が思いつくのはここまでだけれども、本当になにがおこるかわからない」と言う。セントエルモの火みたいのが出るのではないかという人もいたので、「ほんとですか?」と 聞いたら「おれにもわからないよ」と返されたり。

そんなこんなで、もーっ、思いつく限りは全部考えたぞ、あとはやってみるだけだ‥というところまで、煮詰めることができました。

あれから8年

8年後になっても未だ飛んでいないのは「前例がないから」というひとがいるから ..orz

絶対大丈夫か?と聞かれれば、それは「絶対できる」とは言えません。それは当たり前の事なのに、やはり「失敗」するならやらない方が・・という人はいるのです。

そんなこんなで 8年間延々と説明しつづけているフェーズ。でも 8年もずっと同じことを話してると、そんな人も「できるかな?」と思うようになってきて(暗示ですか!)、なんとか近年中には打ち上げられそうな予感です。

第三部: 斬新なアイデアの思いつき方


野田さん曰く、「3-7年くらい世界が遅すぎる」。

例えば、2001 年の=ふじ。これは 2006年の NASA の ORION。に大変似ています。


ふじ


ORION

しかしNASA を5年も先行した「新しい」デザインだったにも変わらず、当時は古臭いとみなされたのです。コロンビア事故が起きた今でこそ NASA すらカプセル型を提案してきますが、それまでは「ださい」「時代遅れ」という風潮でした。

当時は「シャトル型」であることが当たり前で、いろんな シャトル型の概念設計が作られましたが、よくよく見ると ペイロードの重さが負の質量になっていたりで(^^;

今の技術でカプセル型をつくったらそれは凄いものが出来ると提案したけれども、新しすぎて「新しさ」も認めてくれない。それどころから古くさいと言われる。

……って、これって「斬新なアイデアの思いつき方」じゃないですよね。どうやったら思いつくんです?という質問に「それはわからない」いろんな所でいろんな話を(例えば今回のレスキューの話)とかを聞いて、そういう種のようなものをいっぱい撒いているからじゃない?とか(これを行ったのは鹿野さんだったか、、よく覚えてません)。あと、どうして野田さんが斬新なアイデアを思いつくか、それは 適度に空気が読めない人 だからだ、というのがありました。あの頃の有人宇宙船といったら やっぱり世間の空気が「シャトル型」を求めてたりしてたじゃないですか。そういう空気が読めないからだって(w

シャトルはもっとも高いエンジンと二番目に高いコンピュータを再利用するという発想から出来ているけれども、コンピュータなんてもうすごく安くなっちゃってる、そうやって時代が変われば前提条件が変わってしまうことなんて結構あるけれども、意外にそういうのが惰性でそのままだったりする。そういうのを壊すのが斬新な発想だといわれるとかとか。

第三部は、野田さんも仰っていたけれども啓発セミナーみたいになってきてしまっていて、わたしのメモも結構いい加減になってしまってるから、今となってはいい加減にしか思い出せないのだけれども、それでも印象に残っているのが「斬新な発想を求められるひとにこつこつやれという」ナンセンスのお話。

「斬新な発想」をしてるのに「最後までやれ」って、なんだかナンセンス。野田さん曰く、発想が多すぎて整理番号を出さないと状態だそうで。分業するべき。

で、アイデアはやっぱりアイデアだから、どんなに考え詰めていっても、やってみないと判らないところがある。そこが斬新なアイデアだし、なにより絶対失敗しない実験は、実験する価値すらありません。なのに「絶対にできること」しかやりたがらない人はいるわけで。特に今は「お金が無い」「どうやってお金を使わないようにしようか」「今は考えることだけ進めてくれ」という感じで、でももう8年も考えればやって見た方が早いし考えること事態が無駄だよね。

全員賛成でないとGoできないというシステムもいろいろなものを停滞させると言ってました。一番理解の遅い人に足を引っ張られる。司会の人が「フィギュアの採点みたいに 一番上と下を切ってしまえればいいんじゃない」とアイデア。それは合議のやり方としては面白そう。


QAタイムその2

Q.超低高度にたいする地球への影響は。排気とか

A.今の現状では特段わるいものは出てこない


* * *


Q.飛行機の無人機と業務領域とかぶるのでは?その場合のコスト検討はしたか?

A. 有人機との検討はたしかしたハズ。飛行機の問題「飛べる回数」「時間帯」で、例えば

  • 火山の爆発 (これは無人機ならいけるのでは?と質問者からツッコミ)
  • 夜間飛べない

また、飛行機の高度とは、見える範囲の話もある。実は無人機のプロジェクトの検討もしてる(野田さん)


* * *


Q. 今までの超低高度軌道を飛ばした最低記録はどれくらいか?

A. 殆どが軍事用衛星なので記録がない。突撃型衛星(そのまま落ちてしまっても良い)であれば、160km くらいいったんではないか、と思う物はあるにはある。

突撃型でない衛星としては GOCE がある。GOCE は地球重力場を精密に観測するのが目的の衛星で、同じイオンエンジンを使って 230km の超低高度を飛行する衛星です。
ただ、この GOCE は 新凍結軌道は思いつかなかったと思われて、非保持力を精密に検出し、強引にコンピュータで軌道を変えています。そのせいで、この位の高度が限界だったと考えられますが、新凍結軌道なら、もっと下げられます。


* * *


Q.イオンエンジンの燃料のキセノンガスはだいぶ体積が大きいけど大丈夫?

余談:超萌え声の可愛い男の子の質問でした

A. これは良いポイント。キセノンガスは超臨界状態にして搭載します。これは気体・液体の間の状態なのだけれども、温度に非常に敏感です。で、衛星の「翼の穴」は、もっと具体的にはこのキセノンタンクを温度的に守るためのものでした。

おしまいに

大変有意義な時間を過ごせました。今回は初めての参加だったのですが、一緒に行った友人と「次も絶対行きたいね」と。

超低高度衛星自体、実はアンテナが低くって初耳だったので、第一部・第二部はしら無い話ばかりでとってもお得な感じでした。まぁ、仮に知っていたとしてもそのディテールが面白いというところなので、十二分に楽しいはずです。あと理系漫才としてもとっても楽しかったです。理系漫才、Eテレでやらないかな?

第三部の話を聞いて思い浮かべたのは、ロケットガールのこの一節(ちょうどハヤカワ版のを読んだばかりだったので)

「まあ、金を出すのはフランスですからね」
「国辱もんだって声もありますが」
「ここはフランスを称えるべきでしょう。月の極地に着陸するのは技術的に難しいです。燃料が余分にいりますし、通信もどこかで中継してやらないといけない。無難な低緯度帯にしか降りなかったアポロ計画に比べると、これはかなりの冒険です」
那須田は笑みを絶やさずに言う。
「危険を承知で挑戦したフランスは、月への切符を独占する資格があります。確実にできることにしか金を出さない国は、指をくわえて見てるしかないですね」
目は笑っていなかった。

なんだかこれを地で行っている話でした。

あ、そういえば、この3巻に野田さんは無関係じゃなくって、月から離脱する時の 斬新なアイデア の裏付けをやったのが確か野田さんだったハズ。ごそごそ、と書庫をあさります。──富士見新装版のあとがきに書いてありますね。

この場面はJAXA野田篤司氏にシミュレーションで確かめて貰いました。本書の前提においては物理的に可能な解決です。

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)

この新装版がでたころには、もう超低高度衛星のアイデアはほぼ煮詰められていたはずで、なんというかフィクション(那須田さん)と現実(野田さんのアイデア実現屋というお仕事)のまじり具合に、そして石川月美 さんの若さとロケットガールが世に出たのは1995年という驚愕の事実(生まれてないじゃんサテライトガール)、そして8年の説得期間というお話etc な時間の流れに なんだか感慨深いものを覚えます。

*1:真っ赤にならないよ、本当は真っ白になるんだよ

*2:スライドには あさりよしとお先生の部屋でロケットをつくる野田さんの写真/いわく「ここは私の顔ではなく、漫画家の部屋が如何に汚いかに注目」

*3:新凍結軌道による超低高度衛星の軌道保持