安原製作所 回顧録

安原製作所回顧録 (えい文庫 158)

安原製作所回顧録 (えい文庫 158)

安原製作所は世界最小のカメラメーカーで、で、コシナBESSA に潰された(と、一般におもわれれがちな)存在。コシナへの痛烈な批判が語りぐさになっている安原さんだし、突然の閉鎖で非難囂々だったのもあって、よくも本を出したと感心してました。

で、読んでみては内容は愚痴っぽさがやっぱり拭えないのですが*1、愚痴っぽさの中で示唆する物が大きく、たとえ鼻についたとしても読んでみたい許容範囲にあるなぁ(なんて高見にたった発言^^;) と、おもしろく読める本になっていました。普通におすすめの本に仕上がっている(奇跡だ!)

で、共感したことは二つ。

愛するメーカを支えるということ

私はコミケットが大好きです。コミケットでは、本を売る側を「サークル参加者」、買う側を「一般参加者」、コミケット準備会スタッフを「スタッフ参加者」といいます。誰もがイベントの参加者として対等で、決して「お客様」は存在しません。

同人誌は高いですが、殆どはそれは印刷費とトントンという値付けをされています。成人系のだと、完売で関係者で一回飲み会が出来るほどの利益(印刷代を差し引いて、という意味。原稿料やトーン代等の諸経費はなし)、創作系だと完売しても鼻から赤字というくらいの差くらいかな。作品を読んでもらうための諸経費を読み手にも負担してもらうってくらいのお値段です。要は商売じゃないということ。

買い手が買いたくない物を買わないでよい自由と同じように、売り手は売りたくない場合売らなくて良い自由があります。たとえば部数。来てくれた全員に十分行き渡る部数をすりたくもありますが、そんなことをすれば個人の手持ちの金額ではどうにもならない印刷代が掛かりますし、よしんば借金して刷ったとしても採算があうだけ売れなければ一発で(趣味で!)破産してしまいます。

そんな風な実感のある私は、なんでも「お客様の言うことを聞かないと悪だ!」なんて言う今の市場をいきるメーカの苦しさが想像できます。逆にお客様の経験しかないと、なかなか想像しにくい事なのかもしれませんん。同書にも「たまごっち赤字」を引き合いに言及されてますが、たとえブームになったとしたって身の丈にあった製造数しか作れないのは企業だっておなじこと。

多数決な製品をつくるのが、企業として一番理にかなった事ですが、その理にかなわないことをしてくれるメーカを愛するならば、そのメーカの存続のために

ユーザーがメーカーを愛しているなら、そのメーカーを支えなくてはならない。具体的にはそのメーカーの製品を買わなければメーカーを支えることにはならない。

というのは、至極当たり前のことだと思うと同時に、こんなことを書く 安原伸という人が鼻につくくらい、当たり前のこととして浸透していないんだなぁとも思いました。だって

フィルムカメラ好きが支えなくてはならないのはフィルムメーカーだろう。フィルムにこだわりを持っているのなら月に1本でも2本でもカメラにフィルムを通さなくてはならない。普段はデジタルカメラを使ってフィルムカメラは飾っているだけなのに、フィルムの種類が減ったことに文句を言うのは考えのないことだと思う。

なんて、「考えのない人」であふれかえっているのもそうだから。

(逆にアニメのDVDを買う人っていうのは、「支える」意識を持っている率が高いと思う。これで市場が成り立つのなら、それはとてもうれしいことだわ)

悔いの残らない

写真といったらフィルムしかない時代に、写真を始めた人間なので、フィルムにはそれなりにこだわりがあるし、大好きなカメラはフィルムがないとただの鉄くずだったりします。だから、本気でフィルムで写真を撮れなくなる予感――これはフィルムが一本も販売してなくなる・・・ということじゃなくて、私の経済力では手が届かなくなるということが現実に考えられるようになってきたことに、この2年は私としては驚くくらいフィルムをしょうかしています。だから、

フィルムに愛着がある人にとって大事なことは、今フィルムがあることに感謝し、やりたいだけのことをやっておくことだ。(中略)出来る限りのことをしておけばすべては楽しい思い出になり、やり残した物は悔いとなる。

は、本当にそうだと思います。去年はコダクロームを使えたけれど、今年はもう使えません。現像代にアメリカ行き3,600円も払えないから。そうやって年々だんだんと選択肢が狭まって、フィルムで写真を撮れなくなるのだと思う。その時、フィルムをただ懐かしい思いだけで振り返ることが出来るのか。たぶん一度やめていた写真を今頃になってやり始めているのも、そういうことなんだと振り返れば思います。


* * *


その他では共感できないこともそれはあるのですが、共感を得ようとすることなく、個人的考え・好みでズバズバと断定する様はかえって心地が良かろうという物。筋が通っていて、確かにその通りだとおもうけれど、世の中との折り合いは悪そう。そういう人で、そういう本です。また、そういう「頑固親父の店」的なメーカーを許せる土壌が日本にはなかったのだなぁと思ってしまい、それが悲しくも残念でした。


そんな安原製作所のカメラについては、エンゾーさんのレポートが一番心地よいと思いますので、ここでご紹介。

*1:私が「言い訳」は潔くないことだ、という文化に浸っているから愚痴っぽく聞こえるだけなのかもしれない