親指トラックボールは使いにくいか

某巨大掲示板トラックボールスレにちょっと困った人が張り付いている。

その主張の内容が刺激的なのはともかく、明らかにコミュニケーションを求めず自分の意見をブロードキャストしたいだけであるのが問題だ。(このような目的なら、掲示板などに張り付くよりは自分でサイトを立ち上げてしまうのが一番なのだが、彼の真意は自分の意見を敷衍するよりは、人を小馬鹿にして優越感に浸るのが楽しいというだけのようだ)

そんな彼の主張の一つに、「親指は(人差し指より)不器用だから 親指トラックボールなどは使い物にならない」というものがある。

器用な親指が不器用になる瞬間

結論から言えばそんなことはない。指という観点で比べれば親指はもっとも器用な指である。付け根に鞍間接をもつ親指は他の指と向かい合う方向にも並ぶ方向にも自在に動かせる。「握る」という機能を実現するためだ。

実生活を見回しても特にグリグリ操作するデバイスは親指側を想定しているものが多い。ケータイ電話もたいていの人が親指で操作するし、ゲームパッドにしてもアナログスティクや方向キーを人差し指側に移そうとしたものは聞いたことがない。(烏丸さんなら「これですよ」と引っ張り出してきそうで怖いが(笑))

親指が器用だということは、普通に日常生活で実感することだと思っていた。だから、なぜそんな馬鹿な(失礼)ことを言い出したのか正直理解できなかったが、今日親指でノートパソコンのタッチパッドを使ってみて初めて「なるほど、これか」と思い至った。

親指は指相撲のような他の指と90度直行するくらいの面を基準に操作するのがもっとも動かしやすい。だからノートPCのタッチパッドを親指で動かそうとした場合、得意でない方向にしか動かせず、ひどく動かしにくく感じた。これなら人差し指で操作したほうがよっぽど器用に動かせると思ってしまった。

親指トラックボールは駄目?

もちろんこの話がそのまま親指トラックボールに当てはまるわけではない。

親指トラックボールでは当然ボールを転がす向きを親指に最適化している。親指の力を最も引き出せる配置であり、十分器用にボールを転がせる。親指は手首や手のひらが固定されている状況ではもっとも自由に動かせる指だから、逆に手首や腕に負担が掛かった不自然な姿勢でも操作性は悪化しない。

一方、人差し指タイプのトラックボールは実際は人差し指だけで操作するのではない。中指も使うし手の甲も動く。手首を含む手全体の関節を使って操作する。いくら器用な親指とはいえ指一本と比べるとやはり有利だ。しかし手首から先を自由に動かすしても負担にならない姿勢は案外限られている。無理な姿勢で手首から先を動かし続ければ腱鞘炎になってしまう。

たとえば床生活や机が乱雑で十分なスペースがない場合は親指タイプの方が無理なく動かせるだろうし、逆に腕をしっかり保持できる環境(机と椅子があり、腕を乗せる十分なスペースが机になる場合)では、手全体の関節を活用できる人差し指タイプはその力を存分に発揮できる。これら一般的なユースケーストラックボール選択のある程度有効な指針となるだろう。

インプットデバイスの使いやすさ

ただ、インプットデバイスの「使いやすさ」はデリケートだ。例えば同じトラックボールでも広い机と狭い机と言うだけで操作感が変わってしまうこともある。肘が体についてるか、トラックボールに手を添える角度はどうか等、その人の環境や使い方によって評価が大きく変わってしまう。

ちょっとした勘所を得るだけでそのデバイスへの印象は大きく変わる。使いにくいと思っているのに誰かが良い評価を下しているなら、私は自分の使い方が悪いのではないかと疑ってみることにしている。

実は先ほど使いにくいと述べた親指でタッチパッドだが、実は私の使い方が悪いという可能性は高い。何故親指でタッチパッドを使ったかと言うと、ThumbSenseと言うものを試してみたからだ。これはタッチパッドに触れている間だけ、キーボードのキーをマウスボタンとして機能させることで、ホームポディションから手を離さずにタッチパッドを使うユーティリティだ。トラックポイントの衰退を受け、やむなくタッチパッドを使うために作成されたソフトだそうだが、その評判は上々だ。

「親指でタッチパッドを操作する」というアプローチに対する私の第一印象が悪かったのは事実だし理屈上もあまり上手く動かせるようになるとは思えない。でも、慣れると使いやすい野かも知れない。評価を下すのがあまりに難しい。そこがインプットデバイスの最も怖くって、そして面白い所だと思う。